失うということ

僕は、生まれてから39年、多くのことを失ってきました。

歳月などは最たるものですが、取り返しのつかないものを失った時、その喪失感は本当に深いものです。

もっとも大切な何かを失うとき、人は絶望にさいなまれます。

でも、私自身の場合、後から振り返ると、失うことが新しい自分への入り口になっていました。

多くの喪失を経験する中で、

「ベストを尽くして失うものは、神様が失うことを要請しており、決して、悪いことにはならないんだ」

という風に、学びました。

神様はベストを尽くしている人に、悪いことをお与えにならない。

そう思います。

生産者達は、毎年毎年、収穫期のごく一時期の雨ゆえに、膨大な時間や労力が喪失することを恐れています。

でも、それに立ち向かって、目の前の自分にできる畑作業を黙々と行い、先祖達が代々、一生懸命汗を流してきた畑をいたわり続けます。

私は造り手ではありませんから、窺い知れない部分ばかりとは思うのですが、

生産者達は、そんな繰り返しの中で、

神や自然への畏怖が体験的に刻み込まれるのと同時に、

たとえちっぽけな自分であっても、そのたゆまぬ努力が、石に落ちる一滴一滴の水が長い年月をかけて石を削ってゆくかのごとく、何か大切なものを形作ってゆくことを体得するのだろうと想像します。

毎年新しい葡萄ができ、新しいワインができます。

創造と喪失の繰り返しが、大自然によってFORCEされています。

そのような創造と喪失の中で、深い思索と哲学を持つにいたっている生産者が、実際に優れたワインを造っています。

どこかの評論家の文章や、その時代における時流にのった味わいや栽培方法や醸造方法、あるいは、大資本を投下した先鋭的なマーケティング、などなどで、一時的に脚光を浴びる生産者もありますが、10年ー20年といったロングタームでは必ず淘汰され、本物だけが残ります。

ですから、ワイン作りとは、造り手の哲学そのものだと思います。

ですから、生産者と接する現場でのワイン選びとは、人選びに他なりません。

我々の会社は、日本No1のファインワイン会社になるべく、日々進歩しようと努力しております。

進歩とは、古い自分ではなく、新しい未来の自分になってゆくことだと思います。

ですから、過去は喪失せねばなりません。

常に、創造と喪失を繰り返さねばなりません。

新しい自分になることについては、誰もが恐怖心があります。
古い自分を捨てることが怖い、古い自分の延長線でやれば確率は高いからだと思います。

当社では、創造と喪失が凄いスピードでやってきますから、私も含めたスタッフは、自分自身との戦いを常にFORCEされ続けます。

でも、創造の過程で経る喪失は、神様が与えてくれるプレゼントであると思います。

決して悪いことにならない。

大好きなワインの仕事を通じて、理想を目指し、勇気を持って、創造と喪失の繰り返しをしてゆきたいです。

そして、優れた生産者たちが体得しているような、

大きな存在への畏怖、
努力を継続することの大切さ、
それを次世代に伝えてゆくことの大切さ、

といった大切なものを学んでゆきたいと思っております。

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