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最近、ユーロが非常に高く、また石油価格が高く、また穀物も高くなっております。
私が仕事としている欧州産のワインの価格が高くなってしまうという、非常に身近な大変な問題があります。
一方、穀物相場の上昇によって、世界中で数億人規模の人が飢えに苦しむ状況に陥っているという由々しき問題も重大です。
石油が高くなる→バイオエタノール原料たる穀物の相場も高くなる、という構造です。
もしこれが、石油への100の需要に対して、供給量が90→80→70と徐々に減るという、SDバランスによる長期的な価格高騰であれば、人類の英知を持って対応が可能なのではないかと思います。
しかし、今の石油価格の高騰は、世界中のGNPをはるかに凌ぐというファンドマネー、つまり、投機マネーによる高騰であると新聞報道されております。
ファンドマネーが稼いでいる利益は、今、多くの人が高い石油や穀物に支払っている代金に上乗せされたもの、という構造だと思います。
しかし、サミットでは、ついに、世界的な投機資金に対してのはっきりした声明や取り決めはなかったと聞きます。
何億、何兆、というお金を持ってあの世にいけるわけでもなく、どうして、世界の人々が飢えに苦しむ中で、こんな強欲な相場が展開してしまうのでしょうか。
私がフランスに住んでいた頃、私のクルティエの師匠は、当時、血気盛んであった私に常に言いました。
「足ることを知ること。そうでなければ、ワインの文化や本質は理解できない」、と。
師匠は私に説教をしたことも、「それはするな」というMUST NOTをいったこともありません。
常に背中で、行動で、その哲学を示し続けてくれた暖かい方でした。
でも、「足るを知る」という事だけは、繰り返し言葉で伝えてくれました。
百獣の王ライオンは、サバンナでは圧倒的に強い存在です。
自分の女房ライオン、子供ライオンがおなかを空かせていれば、遠くにシマウマの群れがあると見るや、一気に襲いかかり、絶対に勝利します。
それも、体の弱そうな子供やメスから順番に狙って、確実に獲物をしとめます。
サバンナでは、ライオンに勝てる動物などありません。
圧倒的なる強者、です。
でも、ライオンは、お腹が減っていないときに、たとえ目の前でかわいいラビットちゃんやバンビちゃんが、ぴょんぴょん、と遊んでいても、絶対に彼らを遊びで殺したりしません。
ましてや、自分の強さを示すためだけに、それら小動物を餌食にすることもありません。
いかにライオンが屈強で体が大きくとも、胃の容量は決まっているからです。
動物界、自然界では、「足るを知る」ことが当たり前に行われています。
ましてや、知性も教養も感情も持つはずの人間が、足ることを知らないということはあってはならないと思います。
有名なロマネコンティーのオーナーである、ド・ヴィレーヌ氏は、お取引の関係で、何度かお会いしたことがあります。
ある時、お客様が、彼に、
「毎日、ロマネコンティーが飲めていいですね」
といったところ、
「毎日ロマネコンティーを飲んでいたら、妻の誕生日に飲むワインは何にしたら良いのでしょう?日頃は普通のACブルゴーニュなどを、お食事にあわせて飲んでいますよ」
という答でした。
文化とは、足るを知ることだと、僕は深く思いました。
ワインにも色々なグレードがあります。
高価なものも低価格なものもあります。
でも、どんなワインであれ、日常を幸せにするために存在していると思います。
高額なワインならば常に良いわけではありません。
人を幸せにできるワインが良いワインだと思います。
お金も、沢山のお金もあれば、小額のお金もあります。
でも、お金も、人を幸せにするための「手段」でしかなく、「目的」ではないと僕は思います。
会社にも、年商何千億円、何兆円という会社もありますし、小規模なものもあります。
会社の売上や規模は、お客様を幸せにする努力を通じて、従業員が幸せになり、ステークスホルダーの皆様が幸せになるための「手段」であり、「目的」ではないと思います。
ですから、会社も「足るを知る」こと、すなわち、幸せになるために必要なサイズ以上は不要、だと思います。
毎日ロマネコンティーを飲むことが目的ではなく、ある日、ロマネコンティーがあってより生活が幸せになれればそれで良いのだと思います。
もちろん、人は夢を持ち、より良い自分を目指して、大志を抱く必要があると痛切に思います。
その一方で、足ることを知ることも非常に重要だと思います。
車の世界でも、何千馬力というエンジンを開発しても、それを制御できる強いブレーキを同時に開発しなければ、単なる「死の暴走車」でしかありません。
向上心や大志は必要不可欠です。
しかし、足るを知ることが、人を幸せにすると思います。
僕のフランスの師匠は、ワインを通じて、そんな感覚を僕に教えてくれました。
この感覚は一生の宝物です。
戦争で人が沢山死ねば、人類は戦争をしないために知恵を絞ります。
一方、現在の投機マネーによる穀物相場の上昇も、億の単位で人を殺す可能性があります。
しかし、投機マネーの横暴は、戦争のような直接的殺人でないために、今回のサミットでは、人類はそれに制御をかけることがありませんでした。
日本の輸入ワイン産業は、わずか3000億円程度の市場規模といわれます。
市場シェアを100%とったとしても、トヨタ自動車さんの「純利益」にすらはるかに及びません。
我々の会社は、そんな小さな業界における、これまた小さな力でしかありません。
でも、ワインを愛するお客様、生産者、スタッフの方々が向上心をもって幸せに生きてゆくには、充分なサイズだと思います。
だから、僕は、みんながワインを飲んで下さり、その大自然の力やその背景に脈々と流れる哲学に触れて下さるように努力する人生を、全力を尽くし、全うしたいと思います。
そして、師匠に教えていただいた、「百獣の王ライオンのように、足ることを知る文化」が少しでも広げられたら素敵だな、と思って、頑張ってゆきたいと思ってます。
ちょっと大げさな話題になりましたが、今回のサミットに感じたことです。。。
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